2011年9月28日水曜日

開催にあたって

第12回学術大会:「惑星的思考と伝統の知恵」の開催にあたって

村川 治彦 (関西大学人間健康学部・大会事務局長)

まず初めに、私の準備の不手際で、8月末にはお手元に届くはずであった学術大会開催の通知がこのように大幅に遅れてしまいましたこと、心よりお詫び申し上げます。加えて大会の期日が当初の予定より一週間遅い1210日、11日に変更せざるを得なくなってしまいました。すでに前の日程で予定を組まれていた会員のみなさま、特に研究発表を予定しておられた会員の方々には、多大なご迷惑をおかけしてしまうことになり、大変申し訳ございません。

さて、先の震災とそれに続く福島原発事故の影響のもと、日本社会は大きな変革期を迎えつつあります。そのなかで日本のトランスパーソナル運動はどのように社会に貢献していくのか、今その真価が問われていると思います。そこで今年の学術大会は、この学会の存在意義をもう一度考えるための機会にしたいと思います。とは言え、それは何も「東日本大震災への学会としての対応」というものではなく、もっと根源的に、この震災の影響を深く受けている私たち一人一人の魂が、もっと大きなレベルで変革を求められている地球社会で果たせる役割を考えてみたいということです。この思いから、大会テーマを「惑星的思考と伝統の知恵」とし、講演会を三部構成にして、みなさまと一緒に考える時間を十分に持てるような枠組みにしました。

まず第一部は基調講演として、京都文教大学准教授で京都チベット医学研究会代表の永沢哲さんに御講演頂きます。大会テーマ「惑星的思考と伝統の知恵」は、永澤さんが近著『瞑想する脳科学』(講談社選書メチエ)でハイデッガーを引いて述べた一節「未来の惑星のために、ことなる空間や時間のなかではぐくまれてきた思考や伝統のあいだの出会いから、新しい何かを創造する。東洋と西洋のあいだの対話から、新しい思考や知恵を生み出す」に触発されたものです。永沢さんが同書で紹介されている「瞑想と科学の結合から新しく生まれ出た『自己変容』のパラダイム」は、まさにトランスパーソナル運動が追究してきたものであり、トランスパーソナル心理学が現代社会の先端の課題にどのように関係できるかを例示してくださると思います。

 そして第二部では、永沢哲さんとハワイ在住の画家小田まゆみさんの対談を私がファシリテートしていきます。小田さんは1970年代から女神をモチーフに女性と自然とのつながりをテーマにした作品を数多く世に出し、欧米で展開された女性の精神性運動に多大な影響を与えてきた方です。同時に、San Francisco Zen Centerで瞑想を続けるなど、仏教の実践家としてJon Kabat –ZinnJoan Halifaxらとも深いつながりをもっており、まさに惑星的レベルで伝統の知恵を実践してこられた一人です。

 最後にこの講演と対談を踏まえ、第三部では「惑星的思考の時代における日本のトランスパーソナル運動のあり方を考える」をテーマに学会参加者による全体討議を行いたいと思います。宗教社会学者ウルリッヒ・ベックは『〈私〉だけの神―平和と暴力のはざまにある宗教』(岩波書店)の中で、「各個人が様々な宗教的選択肢と生育過程での経験を交換し合い、競い合い、選び直しながら、同時に彼ら『自身』の宗教的真正さを作り出し、保持」するための実践的な道こそが、「世界リスク社会」における宗教の未来を作り出すことだと説いています。世界各地の伝統的知恵の惑星的な価値を見いだしてきたトランスパーソナル心理学は、期せずしてベックのいう「近代化と西洋化を切り離し、西側諸国から近代の独占権を剥奪する」第二の近代化を推進してきました。このトランスパーソナル心理学の日本におけるこれからの展開を、この機会にみなさまと一緒に考えていければと思います。師走の慌ただしい時期ですが、是非みなさまのご参加をお願いする次第です。